プランツ・ゾウろんぽう【Plants tho 論法】

Plants tho(でも植物は/も)からはじまるビーガニズムに対する最も一般的な議論の一つ。「でも植物にも命が...」という議論であれば、そもそもビーガニズムは搾取される対象の感覚や感情を尊重する思想であり、命を主題としたものではないため、この時点で、論理学の教科書[1]で取り上げられるほどの典型的な論理的誤謬(藁人形論法)である。

また、命はすべて平等であるから等しく扱うべき、あるいは、命の平等さのみを考慮し、扱われる対象者の感覚や感情の応答を考慮する必要がない、というのであれば、当然ホモサピエンスの命も平等であるため、ホモサピエンスの搾取も正当化されることになる。そこで感覚や感情を理由にホモサピエンスのみを議論から除外することは、自身の主張の前提から許されない。

そこで、いかなる論理的正当性も示すことなく、ホモサピエンスのみを特別視するのであれば、主張者自身がヒト中心主義的誤謬あるいは種差別主義的誤謬に陥っていることになる。

ここで、神経系は持たなくても「植物にも"感覚に似た何か"があるかもしれない」という議論も考えられる。しかし、植物に外的な刺激に対する反応は認められても、動物に似た意識的感覚を持つと考えられる科学的根拠は一切存在していない[2]。いかなる根拠も伴わない「かもしれない」だけでは、理性的な議論において意味を持ちえないし(【ヒッチンズのカミソリ】参照)、すでに明確で、科学的に合意の得られている動物の感覚[3]について考慮する必要性がないという主張の根拠にもなりえない。

ちなみに、2019年7月3日、ジャーナルTrends in Plant Scienceに掲載された記事[5]において、植物学者リンカーン・テイツをはじめとする7人の生物学者たちは次のように述べている:
植物が生き残るため、あるいは生殖するために、意識、感情、および意図などのエネルギーのかかる精神的な能力を必要とし、したがってまた進化させたという証拠は一切ない。


他にも、植物学者のダニエル・チャモヴィッツの研究が植物の意識を支持するものとしてたびたび持ち出されるだが、チャモヴィッツ自身こう述べている:
植物は認識をしません。私たちが葉っぱを切り落とす時、私たちは植物が苦しんでいるだろうと思ってしまいます。しかし、それは、私たち自身が事態を擬人化しているのです。 あなたは、明確に植物を殺すことができます。しかし、植物はそのことを気にしません[6]。


もう一つ、ノンビーガンあるいはアンチビーガンがしばしば内容を読まずに言及する埼玉大学の研究者の研究に関する記事[7]を引用すると
言葉の使い方は飛躍してしまうかもしれませんが、グルタミン酸が植物における「神経伝達物質」のような役割をしていることがわかりました。
植物が本当に「痛み」を感じているかはわかりません。ただ、少なくとも自分が傷つけられた時に、どういう仕組みでそれを感じているかは明らかになったんです。
論理的には飛躍しているかもしれませんが、「痛い」といったキャッチーな言葉を使って説明しました。

と研究者自身が述べている通りである。すなわちこの研究は植物が外的侵害の情報を内外に伝達するという以前からわかっていた現象に関するメカニズムの詳細の一部を明かしただけであり、植物に動物の脳に対応するその情報を処理する中央処理システムが存在することを示したわけでも、それを用いることなく意識的知覚を経験する「誰か」(統合された経験の主体者)を生み出す手段があることを示したわけでも決してない。

ついでいにいうと、テイツらの記事でも引用されている神経科学者トッド・E. ファインバーグと、進化生物学者ジョン・M. マラットの研究[8,9]では、植物は意識を持ちえない一方で、改めて、魚を含めた脊椎動物、昆虫やカニなどの節足動物、そしてタコやイカなどの頭足類は、意識を生成する神経基底を有すると考えられる基準を満たすと述べられている。

ちなみに、1kgの肉を生産するのに7kgから10kgの穀物が必要とされる[4]。またアマゾン破壊の91%は畜産が要因となっており[5]、それが原因で毎日数十の生物種が絶滅している。したがって、ビーガンより雑食者の方が植物を含めより多くの命を奪っており、失われる命の総量を考慮しても、ビーガンという選択の方が優れているといえる。

出典

[1] 加藤浩, 土屋俊 記号論理学. 放送大学教育振興会. 2014
[2] https://www.vice.com/en_us/article/we-asked-a-botanist-how-sure-science-is-that-plants-cant-feel-pain-302
[3] https://www.newscientist.com/article/mg21528836-200-animals-are-conscious-and-should-be-treated-as-such/
[4] http://www.unccd.int/en/programmes/Thematic-Priorities/Food-Sec/Pages/Wors-Fact.aspx
[5 ]http://www-wds.worldbank.org/servlet/WDSContentServer/WDSP/IB/2004/02/02/000090341_20040202130625/Rendered/PDF/277150PAPER0wbwp0no1022.pdf
[4] http://www.savetheamazon.org/rainforeststats.htm
[5] L. Taiz et al. Plants Neither Possess nor Require Consciousness Trends in Plant Science. 2019 1360-1385.
[6] http://davitrice.hatenadiary.jp/entry/2016/01/23/203008
[7] https://blogos.com/article/335374/
[8] T. E. Feinberg and J. Mallat. The nature of primary consciousness: a new synthesis. Conscious. Cogn. 2016; 43: 113-127
[9] T. E. Feinberg and J. Mallat. Consciousness Demystified. The MIT Press, ; 2018



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ビーガニズムに関する疑問は『 ビーガンFAQ』参照